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[コラム]子供用椅子 トリップ・トラップ事件の最高裁判決(令和8年4月24日)「量産品は著作物に当たらず」

2026年07月01日NEW

1.はじめに

 本件は、ノルウェーの家具メーカーであるストッケ社が製造販売する子供用椅子「TRIPP TRAPP(トリップ・トラップ)」が、著作権法上の著作物に該当するか否かが争われた上告審判決である。
 本件椅子は世界累計販売台数が1,400万台に上る量産実用品である。

 

2.判旨

 (1)著作物と意匠

 ①著作権法2条1項1号は、「著作物」を「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義している。もっとも、量産実用品については、その形状等が思想又は感情を創作的に表現したものであるということができれば、直ちに美術の範囲に属するものとして著作物に当たるとの解釈を採ることは相当ではない。
 すなわち、我が国には、産業の発達に寄与することを目的として、視覚を通じて美感を起こさせる量産実用品の形状等を保護する意匠法があり、量産実用品の形状等について、意匠登録出願をして所定の審査を経て設定の登録がされることで意匠権が発生する。意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有し、意匠権の存続期間は原則として意匠登録出願の日から25年とするなどとされている。

 ②これに対し、著作権法では、登録等の手続を経ることなく著作権が発生し、業として行われる行為以外にもその効力が及び、その存続期間は原則として著作物の創作の時から著作者の死後70年を経過するまでの間とし、著作者は著作権に加えて著作者人格権も享有するなどとされている。

 ③以上のような我が国の意匠法及び著作権法における権利の発生要件、内容及び存続期間等に鑑みれば、量産実用品の形状等について、意匠法に加えて著作権法により保護されることを広く認めた場合には、あえて費用等を投じて意匠登録を受けなくとも、同法によって、より長期間、広範に保護が受けられることとなる可能性があり、意匠法の存在意義を損なうおそれがある。

 ④もっとも、量産実用品の形状等は、通常、実用目的に必要な機能(以下、単に「機能」という。)との関係で一定の制約を受けて決定されるものであり、機能に由来する構成と別個にこれを把握することができないものであるけれども、その中には、例えば、表面に単なる模様や表面加工の域を超える装飾が付加されているもののように、当該付加部分の形状等が、機能と関連せず、観念上、機能に由来する構成とは別個の絵画や彫刻として把握できるものがある。このようなものは、量産実用品に「美術の著作物」が単純に付加されたものということができ、当該付加部分に同法の保護が及ぶことは当然である。

 ⑤以上によれば、量産実用品の全体又は部分における形状等が、観念上、機能に由来する構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものである場合には、当該量産実用品の全体又は部分は、著作権法2条1項1号にいう著作物のうち、美術の範囲に属するものに当たるというべきである。

 

(2)本件椅子の著作物性

 本件椅子は、量産実用品でって、上告人らは、大要、約66度の略L字型を成して床面から立ち上がっている2本の脚を有し、当該2本の脚の間に座面板及び足置板が床面と平行に固定されるようになっている点において創作性が認められるから、本件椅子が著作物に当たると主張する。しかしながら、上記の点は、子供用の椅子としての機能に由来する構成である脚、座面板及び足置板の配置による形状が美感を起こさせるものであることを基礎付ける事情にすぎない。そして、本件椅子の全体又は部分における形状等は、子供用の椅子としての機能に由来する構成としてしかこれを把握することができず、当該構成とは別個に、思想又は感情の創作的な表現として把握することができるものではない。よって、本件椅子は、著作物に当たるとはいえない。 

 

3.評釈

 本件は、古くから議論されてきた「応用美術」が「美術の著作物」に該当し得るかが問題となった。著作権法上、応用美術に関する明文の規定は存在しないため、従来の多くの裁判例は、応用美術が著作物として保護されるためには、「美的鑑賞の対象となり得るような美的創作性」を要すると解してきた。一方で、量産実用品であっても、上記要件を満たす場合には、意匠法のみならず、著作権法上の美術の著作物として重畳的保護を認めた裁判例も存在する。

 本件の「子供用椅子」については、判旨にもあるように創作的な表現物とは認定し難く、また意匠法との関係からも、量産実用品であることを踏まえて著作物性を否定した判断は妥当であると考えられる。
 ただし、本判決が量産品であることを主眼として著作物性を否定している可能性があるが、この点は直ちに賛同できるものではない。

 なお、本件子供用椅子については、知財高裁平成26年(ネ)第10063号(平成27年4月14日判決)事件においては、オプスヴィック社代表者の個性が発揮されているとして、「創作的な表現」であるとして著作物性が認められた事例がある。同判決は、「『美的』という概念は、多分に主観的な評価に係るものであり、何をもって『美』と捉えるかについては個人差も大きく、客観的観察をしてもなお一定の共通した認識を形成することが困難な場合が多いから、判断基準になじみにくいものといえる。」と判示している。

 

<参考裁判例>
 本稿は、以下の公開裁判例を参考にしています。
 ・最高裁判所第二小法廷令和8年4月24日判決・令和7年(受)第356号
 ・知的財産高等裁判所平成27414日判決・平成26年(ネ)第10063

 

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